NHKスペシャルを通して現在の社会情勢と青年及びひきこもりを考察する

2020-11-24

暮らしの安全保障医療・福祉の安全保障

11月のNHKスペシャルは、2回に亘り若者・青年を題材にして、その時代・時代の苦悩から青年特有の熱情をテーマに放送された、野心的であり切実な内容だったと思います。

NHKスペシャル | 50年後の若者へ 三島由紀夫の青年論
NHKスペシャル | ドラマ こもりびと

まずは没後50年となる三島由紀夫の話だが、三島は若者との対話を生涯を通じて全身全霊で行ってきた。
三島由紀夫の東大全共闘の映画が今年上映され、私も観に行ったが、当時の若者が社会のあり方に対して憤りを持ち、変革を通し一石を投じ、巨大権力に言論からゲバ棒を持って立ち向かうという、三島由紀夫の言葉を借りれば、熱情だけは偽善的でないという事だけは誰もが疑いもしなかったと思う。

 

 

時は50年経ち、ドラマ「こもりびと」の話に移りますが、松山ケンイチが演じる主人公・倉田雅夫は、10年以上に渡ってひきこもり生活を送っていた。
武田鉄矢演じる、厳格な父で元教師の倉田一夫と雅夫は、幼少期から青年期、そして現在まで、お互い全くかみ合っていなかった親子関係であり、お互いがお互いを理解しようともしていなかったが、父親が末期がんで余命半年を宣告された事から物語は始まる。
社会復帰を強く望む父親と、ひきこもりの息子との葛藤、そして、雅夫も社会復帰のために一人もがくが・・・詳細は、今後ドラマを観る方もいると思いますので、割愛させて頂きますが、これを経済的な側面、政治的な側面で、説明したいと思う。
このドラマは、下記のひきこもりの問題の全てが集約されている秀逸な作品だったと思う。
具体的には、

家族(父母)が時代・時代の変化と、社会の経済的状況の違い(デフレ、就職氷河期、非正規の増加)を理解していない
親が亡くなってから(または亡くなる間際に)ひきこもりの現状が露わになり問題となる。
家族が当事者(ひきこもり)に対しての理解が出来ていない
働いて収入を得るという社会的な地位以外の価値観を認めない
社会との関係性が断絶されており、孤独であり、相談相手がいない(理解してくれる人が身近にいない)
行政のひきこもりに対する人的な支援が乏しい
支援等のゴールが働く事であるのが前提という認識(生き方の尊重ではない)
効率性だけを求め、必要のない人を排除する社会情勢
経済的に困窮しており社会復帰のための手立てが脆弱

まずは、時代状況を整理すると、父親の一夫の時代は、高度経済成長の時代で、いわゆる右肩上がりで頑張れば頑張っただけ評価され、所得にも反映される時代背景があった時代。
反対に息子の雅夫の時代は、バブル崩壊後のいわゆる失われた30年と言われるデフレの時代で、1993年から2005年の就職氷河期の真っ只中で、就職活動も不景気で正規採用は抑制され、非正規が増加し、ブラック企業が流行語になった時代。

父・一夫の自身の時代背景からの成功体験を通した、助言・指導・叱責が、息子・雅夫の時代には全く噛み合わず、認識の違いが親子関係を複雑にし、とりわけ成果が出ない雅夫の心に影を落としていくが、現に、1996年あたりから非正規労働が増え続け、1996年は20%程度であったが2019年には38.3%となっている。
また、精神疾患の患者が1999年の約205万人から倍増し、2017年には約423万人に増えた。労働環境の悪化と相関関係があり、中でもうつ病等の患者は3倍と急増している。

このドラマを観て私は現在の社会状況、過去の社会状況のズレ、歪み、そして経済状況でどうにもならない若者の叫びと現在の若者の叫びが、交錯しているように思えてならなかった。

サッチャー元首相、レーガン元大統領、中曽根元首相、安倍前首相、菅首相含めた、新自由主義経済の歪み、経済効率化で非正規が増加し、その削減部分の利益が資本家に回り、中間層が激減し、貧困層が増え、富裕層が増え、その社会的な歪みがひきこもりの原因となる。結果、就職氷河期につながり、デフレにつながり、非正規が約40%となり、社会的に様々な問題が噴出している。

最近では、2012年から始まったアベノミクスの実態は資本がある者をより強くし、富裕層を急増させる一方で、トリクルダウンは起きず低所得者への波及効果はおろか、実質賃金が下がり、可処分所得が下がっている。また、新型コロナ感染期前では中央政府は雇用が増加したと言っているが、実態を見ればその対象はほとんどが非正規雇用であるので、非正規雇率の増加が止まらず、いわゆる格差が広がったのがアベノミクスだと言わざるを得ない。
社会的な背景からひきこもりから精神疾患まで因果関係がある事はどのデータを見ても明らかで、政治の負の影響が見て取れる。ひきこもりを減らすためには、まずは安定した雇用及び労働環境の改善、つまり中間層を増やし所得を増やし、非正規を減らす事に尽きる。これは政治的にやらなければならない責務であり、就職氷河期で正規雇用に就けなかった方々に再度、機会を作る事が求められる。

終わりに、ドラマの内容はひきこもりの現状を社会的、経済的な部分から親と子の関係、親戚含め詳細に描かれていたと思う。
誰よりも理解してもらいたい人が家族であり、父親・母親であるが、ドラマでは全くもって理解はされない。つまり、よき協力者であるが、よき理解者ではなかった。最後の最後に父・一夫は、雅夫のことを理解していなかった事を理解するシーンが印象的であり、それで終わればいいのだが、現実は続いて行く。ドラマの雅夫のようにひきこもりの方が推計で100万人いるとも言われているが、社会全体で支えて行かなければならないのは上記の社会的状況の変化からも明らかであるので、私も微力ながら一助を担うために力を尽くしたいと思う。