国民病の花粉症、実は戦後の植林政策の失敗の放置だった!?

2023-03-01

地域経済の安全保障環境・命の安全保障

2月から4月は特に花粉が飛散し、住民の皆さんにとって毎日が辛く外出するのもためらう程だと思います。

花粉症の人にとっては目が腫れ、鼻水が止まらず、自律神経が乱れ、寝不足になる等、社会経済活動にも影響を及ぼす国民病です。

それが実は政府の失敗であり、対策を未だ放置しているとしたら国民の皆さんはどう思いますか?

その実態について歴史的な経緯を含め調査し、今後の対策をレポートにまとめましたので是非ご一読ください。

 

 


花粉発生源対策推進事業と政策手法

2022年7月28日
墨田区議会議員 中村隆宏

 

 日本では花粉症に悩まされている方が毎年増加している。現在、日本人の3人に1人以上がスギ等の花粉症に罹患しているとされ、特に都内では2人に1人が罹患していると報告されている[1]。その主な原因となるスギ花粉の花粉発生源対策における環境活動・施策について取り上げる。

 まず日本特有の国民病とも言われる花粉症が何故ここまで拡がったのだろうか。今から遡ること約75年前の昭和20年代、日本は戦後復興期の真っ只中で、住宅建築等のために木材需要が急増していた。しかしながら、自然災害や戦時中の乱伐などの影響で供給が追い付かず、木材の不足が続いたため木材価格が高騰していた。こうした状況に対応するため政府は「拡大造林政策」を実施し、明治期に造成された広葉樹中心の森林をより木材に適し成長が早いスギ、ヒノキといった針葉樹を中心とした人工林に置き換え、木材需要に対応する施策を推進するに至った。
 その後、木材の輸入の自由化に伴い低価格帯の安い木材が輸入され国産の木材が活用されず、結果として大量の人工林(スギ等)が手入れされないまま残置され、現在の花粉症の元であるスギ等の大量花粉の飛散に繋がっている。
 花粉症による健康被害は、鼻づまりによる睡眠不足、自律神経の乱れ・免疫力の低下、花粉症の薬の副作用等が挙げられる。さらに健康被害だけでなく、経済的被害をもたらし、花粉症が原因による経済損失については、第一生命経済研究所によれば2019年1月から3月までの3ヵ月の間に外出を控えたことによる家計消費は5,691億円のマイナスという試算結果であった[2]。

 これらの花粉症による問題が顕在化したことから、農林水産省(林野庁)では、平成3年に少花粉スギの開発に着手し、平成8年には最初の少花粉スギを開発し、平成13年には『スギ花粉発生源対策推進方針』を制定し、国、都道府県、市町村、森林・林業関係者等が一体となってスギ花粉発生源対策に取り組む必要性があることから、全国の自治体の都道府県知事に要請を行った一連の経緯がある。
 農林水産省(林野庁)では、これまでに①花粉を飛散させるスギ人工林等の伐採・利用、②花粉の少ない苗木等による植替えや広葉樹の導入、③スギ花粉の発生を抑える技術の実用化を3つの柱とする花粉発生源対策に取り組んできたところである。
 現在までに、少花粉スギは142品種、無花粉スギは3品種開発されている。開発の進化によって無花粉や花粉の少ない苗木をより普及させていく側面だけでなく、木材の成長が通常より1.5倍以上早い等の特性を持つ苗木も開発されている。従来であれば50年かかっていたものが、30年くらいで木材としての利用が期待できる成長が優れた苗木もあり、林業の業界全体にもメリットがある。さらに、スギの成長速度が早いということは、山地災害の防止や二酸化炭素の吸収など森林が持つ公益的な機能の維持・向上にもつながるというメリットが存在する。
 一方で課題としては、無花粉や花粉の少ない苗木の生産量は年々増加し、2018年度は前年度の2倍近い約1000万本に上り1年間に生産されたスギの苗木の4割程度に上っているものの、全国のスギの人工林のうち無花粉や花粉の少ない苗木が植えられた面積は0.3%程度とわずかにとどまっている。その原因として、林業は作業員の人手不足や従事者の高齢化に加え、産業として衰退しておりビジネスとして成立しづらい側面があり、伐採が進まない事が背景として挙げられる。

 令和4年度の予算要求として農林水産省(林野庁)は、花粉発生源対策推進事業に1億7600万円の予算請求を提出した。予算請求の中で特に額の大きい予算案は、花粉の少ない森林への転換促進で、令和元年度に全体の5割程度だった生産量を、令和14年度までに全体の7割まで引き上げることを目標にしており、転換推進の中には、加工業者が行う森林所有者への植え替えの働きかけ支援や、花粉症対策品種の生産支援も含まれている。
予算額の振り分けは国、県、市町村から委託される民間事業者への事業、取り組みの支援に活用され、他にも花粉飛散防止剤の空中散布の基本技術の確立や、花粉を飛散させる雄花の着花状況の観測精度向上のための調査にも使われる予定になっている。
 今後、本格的な利用期を迎えるスギをはじめとした人工林の主伐・再造林の増加が見込まれること等を踏まえ、花粉発生源対策として、スギ人工林等を国内で木材としての利用を進めるとともに、花粉症対策に資する成長が早いスギ苗木の生産や植栽、広葉樹の導入による針広混交の育成複層林等への誘導等により、花粉の少ない森林への転換を図るほか、花粉飛散防止技術のさらなる開発等を促進させ、今後の展開として「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用を確立し、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を両立することを通じて花粉の少ない苗木への植え替えを進めていく方向である。

 以上の支援的手法によっての政策の長所は、民間から各自治体に対しての幅広い啓発ができ、民間や実施自治体が主体的に参加し様々な協力・連携が出来る事である。短所としては、啓発での支援が主体なので予算の金額ベースが限られ自治体の限られた単独予算のみで実施をしなければならない事である。帰結として予算が豊富な自治体は推進する傾向があり、現に環境省の花粉症環境保健マニュアルでは2014年版[3]、2019年版[4]、2022年版[5]とも花粉発生源対策の自治体等における先進的な取組みとして、東京都が取り上げられていることが象徴的である。

 以上の花粉発生源対策事業を考察すると、不作為の過誤が現実問題として直面しており、現に国民の3割強、また都内では5割程度の花粉症の罹患率という状況を鑑みれば、社会的課題であり労働損失、医療費増大、経済損失をトータルで考えれば早期に対応すべき事業課題であり、不作為の過誤が現在も起こっている状態であると言わざるを得ない。
 現在、日本の国土の約7割は森林で、そのうち6割が天然林、4割が人工林である。無花粉や花粉の少ない苗木は年々増加しているものの1年間に生産されたスギの苗木の6割は残念ながら通常の花粉を飛散させるスギの苗木を植えている現状があるので、早急に予算をかけ社会的損失と花粉発生源対策事業の予算、国民の生活の向上を総合的に勘案していかなければならない。今後は無花粉や花粉の少ない苗木を100パーセントにするとともに国が主体的に予算をかけて積極的に課題解決に向けて動き出すべきである。

 現在、スギの木をはじめとした人工林は本格的な利用期を迎え伐採の時期が到来している。そのため機を逸することなく木材の国内利用を促進し国内回帰を推進する施策を実施し、経済的手法を用いた国の補助金のインセンティブや税制の優遇措置を進める事が重要だと考える。国内回帰による地産地消の地域経済を活性化し持続可能な循環経済・環境を作ると共に、花粉発生源対策をより推進して社会的課題である労働損失、医療費増大、経済損失をいち早く解決し、国民の生活向上を図る事が急務である。

 最後に、国内回帰を促進する相乗効果として、海外で問題となっている森林伐採による熱帯雨林やジャングルが砂漠化している環境問題の解決の一助にもつなげられると考える。また、資本主義のグローバル化による安い労働力や安い木材という経済的な視点のみで考えず、世界的な地球温暖化対策にも寄与する持続可能な環境施策を推進し、花粉発生源対策はもとより真の循環型社会を両輪で推進すべきである。

(参考文献)
[1]東京都福祉保健局(2017) 花粉症患者実態調査報告書
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/12/18/14.html
[2]花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響 第一生命経済研究所(2019)
https://www.dlri.co.jp/pdf/macro/2018/naga20190305kahun.pdf
[3]環境省(2014) 花粉症環境保健 マニュアル
https://www.env.go.jp/content/900406391.pdf
[4]環境省(2019) 花粉症環境保健 マニュアル
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual/2019_full.pdf
[5]環境省(2022) 花粉症環境保健 マニュアル
https://www.env.go.jp/content/900406385.pdf